可 惜 夜




            ア タラ ヨ
           可 惜 夜

満ちる月と影が支配する部屋、伸ばされた指が。


ぎし、ぎし、と動く度に鳴るベッドの軋み、支配するのは闇。
視界は塞がれているおかげで光りは朧にしか感じない。
ローガンはその光すら疎ましかった。身体を愛撫する大きな手、身体がそれを遮ってくれるのを感じながらぎり、とシーツごと拳を強く強く握る。
「……手首も縛られたいのか?」
官能を揺さぶる低い囁きにローガンは小さく頷いた。自分からこの大きな身体に縋る位なら、そうされた方がマシだ。
少しでも深く、強く繋がりたいのに決して穢れたいわけではない、随分自分勝手な事である。しかしヴィクターもそれを解っていてもローガンを抱かずにはいられない。こちら も随分勝手な思いである。
加速し暴れる熱に浮かされるようなセックス。
ネクタイで乱暴に両手首を前で縛り服を脱いでヴィクターはローガンの身体を抱き上げた。触れた肌は熱く昂ぶっているのがわかってヴィクターは笑う。
「俺の所為にしろ、」
嫌悪感しか感じない筈の行為が悦楽を呼ぶ事に震える自分より小さな身体はこの行為に後ろめたさしか感じていないのだろう。それは彼、ローガンの一人の人間としての気質なのだ。
「ちび、」
いやだ、とうめく声。猛る熱が、この行為が、それとも俺が、どれを差しているのかは解らない。それでもヴィクターは無理をさせる下肢を少しでも融こうと指を動かした。
濡れた音と内部の震えに苦笑しながら唇を塞げば甘える舌がローガンの感情を伝える。
欲しい、熱い、深く、もっと−−−
背を綾す様に撫でながら応える様に猛った凶器を押し当てると、怯えた腰が逃げるのを押さえ付け乱暴に突き挿れた。
激痛に震えながらもローガンは必死で声を堪えた。先端を呑み込んだ内壁がそれを味わうように甘く噛む事をローガンは知っていた。
これがすきなのか?と笑う声に歯を震わせる事しか出来ない。
熱い、内部に押し入ってくるそれはいつだって圧巻だった。
内部はもうそれに夢中になっていた。甘く噛んで締め上げて奪い尽くそうと震える。それは確かにセックスという行為の所為なのだがそれだけではこうならない事をお互いが知っている。
ヴィクター、こんなならまだその背にしがみついた方がマシだ、ひ、と浅く何度も息を吸いながらローガンは自分の浅はかさに泣いた。
「どうした?」
溶けはじめた内壁の誘うままに腰を動かしていた動くのを止めて頬に伝う涙を舐めた。
「は、ぁ、あ、」
言葉で伝える事が無理ならば、身体で伝えればいい。
ぐるぐる回る頭をもたもたと振ると半端な位置までしか呑み込んでいないそれを根元まで受け入れるために身体を起こした。
ぐち、と嫌な音を立てて自分からそれを全て呑み込んで。
ローガンは縛られた手首をヴィクターに差し出した。
「…解いて、くれ」
無理に呑み込んだおかげでつぅ、と内部から伝う血にヴィクターは困惑しながら言われたままにそれを解く。
普段は行為中自分からは動かないローガンがどういう心境でこうしているのか解らない以上従った方が良いと思った。
「糞…デケェんだよ、おまえ………ッ」
苦痛に顔を歪めてはいるが声からはからかう様な色が見えて。どこか子供じみた感じがして堪らなく可愛く感じたのが悪かったのかローガンは内部の反応、というか俺の反応に気付いて頭を殴る。
「サカってんじゃねェよ」
「サカってんのはどっちだちび、おまえもだろうが。も、動くぞ。何か我慢出来なくなってきた」
突然腰を動かし幾度も凶器を突き立て始めたヴィクターに切羽詰まった声を上げ初めてローガンはヴィクターの背を抱いた。
「い、い、ぜ……掴まってろ…ッ」
片手で眼を覆っていた布を剥がしてベッドの外に捨て、ローガンは目を開けた。青白い光に反射した汗ばんだ互いの肌が鈍く光っているのを見てそっと息を吐いた。
ローガンは可笑しくなった。
何かに怯えていた自分が酷く滑稽だった。
これを欲というのだ。
自覚して少々恐ろしくなった。
だが笑いの衝動はこらえられなかった。
くつくつと笑うローガンに動きを止めたヴィクターは怪訝そうに頬に伝った涙を舐める。それがまた可笑しくてローガンは笑った。
白い光の中に居る事も、何も。もうローガンは感じなかった。
満ちた月の光を吸い光るそのきんの髪に万感の想いを、その欲を伝えるように接吻をして抱きしめる。
内部を蹂躪する荒い凶器の与える苦痛すら愛しくてローガンは笑った。
ヴィクターは笑うローガンを見て戸惑ったものの夢中でその身体を揺さぶった。

月は静かに白いベッドの上絡み合う二人を照らし出していた。


                                     了

        あたら夜/可惜夜
   良夜(りょうや)とは月の明るい夜、とくに
   中秋の名月の夜の事を差します。また、いつ
   までも眺めのよい夜は惜しむべき夜なので、
   それを可惜夜といいます。

           (光琳社出版 「宙ノ名前」より)




画像・テキスト等無断借用・転載厳禁
Using fanarts on other websites without permission is strictly prohibited * click here/ OFP
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送