Rumble Fish




            Rumble Fish


殺し合うように愛し合うなんてまるで俺達の様だ。
狭い水槽の世界の中二匹で殺し合っているこいつらを見た時に感じたそれは酷く甘い誘惑だった。
そう感じているのは俺だけではない事をおまえは俺に見せた。見せてしまった。

クライアントの呼び出した場所は賭博場だった。
だが普通の賭博場とは違い、そこには水槽しか存在しない。
「闘魚専用の賭博場なんですよ、此処は。」
不思議そうな視線に気付いたのかクライアントは席を勧めながら簡単に説明してくれる
「トラディッショナル・ベタ、正式にはベタ・スプレンデス。英名ではランブルフィッシュと呼ばれていて闘魚という通り激しい闘争性を持っている魚でしてね、特殊な器官を持っているからかなり丈夫で比較的育てやすい魚ですな。あのように美しい姿をしているだけにファンも多くてこういう私も好きが高じてこうして商売にしている訳ですが」
それからは仕事の話になり、用件が終わって時間に余裕があった為その水槽の中の様子を見る。
くるくると踊るように動く二匹の魚は確かに美しかった。

クライアントの仕事が済み、報酬を受け取った後クライアントから思いもよらないものが贈られた。
「また、そのうち仕事をお願いすることになるでしょうから。何かの時に使ってくだされば……」
地下にあるクラブの奥のVIPルームの鍵。どうせ管理しているのはこのクライアントならば、とその鍵を受け取りながら提案した言葉にクライアントは嬉しそうに頷いて早速手配するとだけ言って去っていった。
水槽の中踊る二匹の魚の管理はすべてそのクライアントが手配していたので自分では何一つしていない。
それを何故そいつに見せようと思ったのか、それは単なる気紛れだ。良い芝居を作るには打ちあわせは大切だ。
まぁそういう事だ。
酒瓶片手に魚に見入るそいつの眼にそれがどう映っているのか興味が湧いて聞いてみる。
「…好き、あって…いるようにみえる」
聞いた答えは予想以上のもので、思い出しただけでも笑える。全く最高だ。
殺し合う事でしか伝えられないその感情を、掴み出す事が可能な事を認められた気分でネタをバラしてやれば、眼にみえてショックを受けたらしいそいつはその場を逃げていった。
追いかけるよりも今はそのままにしておいた方が俺に都合の良い結果になるだろうと読んで新しい葉巻を取る。
何処に逃げたとしても俺にとっては何の意味も無い事だ。
簡単だ、中身は全部俺には見えているのだ。あいつに俺が見えているように、だ。
水槽の中、殺し合う魚。
それは俺達そのものなのだ。
今頃必死で抗おうともがいている様を思い浮かべて可笑しくて笑う。
早く来い、抗う無意味さを思い知って堕ちてこい。
その時こそ楽しいショーが始まるのだ。
暗い闇の中、セイバートゥースは笑った。



                                     了




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