pillow talk





[pillow talk]




 夜が静かにその日の終わりを告げようとしている。ひととき、世に認知されるヒーローという仮面を外し、顔を付き合わせている男が二人。おりしもその日はお互いに別々に行動しており、日が変わろうとする今、ゴッサムの大富豪の邸宅の一室でようやくの合流を果たした所だった。
 お互いにヒーローであるという以上の秘密を共有するようになってから長い。素顔をさらして抱き合う関係。それはヒーローではない、ただの新聞記者として、ゴッサムの富豪としてでもない、お互いの持つお互いだけの顔で。
 そんな彼らの持つ新しい秘密はどちらからとも付かずいつからとも言えぬまま少しずつ始まって、今では少なかぬ範囲に新たな影を落としている。お互いにそのことに気がついている。しかし止める気はなれなかった。

 広い部屋の一角にある広いベッド。大の男二人が事に及んでも十分な広さと頑丈な構造を持つそれは普段は使われない奥まった客室の一つにあった。その上には家の主と彼より一回り体格のいい男がお互いの服を引っ張り合っている。
 今からまさにいわゆるそういった行為に及ぼうという矢先。大きい方の男が不用意とも取れる一言を発した。
「きいたよ。ダイアナにキスされたんだって?」
 その言葉を聞いて、闇に慣れ親しんだ屋敷の主は、その中でも相手にそれと分かるようにと、眉を顰めると同時に不機嫌さを織り交ぜた少し低めの声で応えた。
「こんなときに何だ」
 その口調ににひるんだ様子も見せず、問題発言をした男は下にいる相手のシャツを引っ張り出すことに成功したことに味を占めて、今度はボタンを外しにかかる。
「こんなときだからこそさ。“バットマン”にきいても、返ってくるのは、沈黙だからね」
「………」
 沈黙とともに手も止まった、今現在バットマンではない男は、その様子を見てなんとも楽しそうな相手の瞳から目を逸らすと、赤いコスチュームのチームメイトの姿を思い浮かべて頭の中で舌打ちした。フラッシュだな…。あのお喋りめ。
「おいおい、今はブルース・ウェインなんだろう?質問に答えて」
 新聞記者の性なのか、黙る相手に詰め寄ることのなんと生き生きと楽しそうなことか…。久しぶりの時間に女の話題を持ち出してくる相手。腹に据えかねると、つい口が滑ってしまうこともあるものだが、もちろん、ブルース・ウェインたるものそんな様子は微塵も感じさせない。いつものカメラ目線の微笑みと人当りのいい口調で応える。
「君からの取材は間に合ってるよ。新聞記者さん。どうしても私に応えて欲しいならロイスを出してくるんだね」
 その言葉に今度は、さっきまでリポーター役をやっていた方の手が止まる。鋼鉄がしおしおとまるで軟性の物質になってしまったかのような表情は、最初相手の男がした反応とはまた別のもだった。何とか出た呟きは思わず頭に手を置いて慰めてやりたくなるような響きを含んでぼそぼそと鳴った。
「こんなときに……」
 その様子に、少し苛めすぎたか…と思いながら、この関係を止める気は無いのはどちらも同じで。この場のこの話題を会話を楽しんでいるだけなのだということにするために、プレイボーイとしても世に認知されている男は方眉を挙げて不適に言い放つ。
「おや、最初にこの手の話題を出してきたのはそっちだろう?」
 そして、笑う。相手しか知らない表情で。その表情に軟化物質になっていた相手は硬度を取り戻したようだ。そして、誰もが知るきれいな笑顔にほんの少し影を混ぜて、微笑んだ。
「……君にはかなわないよ」
 そう言いながら、甦った鋼鉄の男は愛しい相手の頬に片手を滑らせた。自然と体も密着する。いつものように再び動き始めた時間を止めたのはそのままの流れで体勢を下に持っていかれそうになっている男のこの言葉だった。
「わかれば結構。妬いてくれたのは嬉しいけどね」
 最初はいつものように少し不遜に。次の言葉は想いの篭もった声音で。いつもの戯言の中に混じった思わぬ言葉に、相手を押し倒したままに片手を向かいのスラックに伸ばしていた男の動きが止まる。
 流れつつあった空気も不意に止まった。しかしそれはその後に強く揺り返しが来ることがわかっている静止だ。確信的に濃密な空気が空間に満ちていく。心地よいプレッシャーに押され男は片手を引くと相手の頬を両手で包み込むと口を開いた。わずかに首を傾げながら、優しく問う。
「それはお得意のリップサービス?」
 そう言われた本人もその空気が何を連れてくるか知っている。分っていてそれを楽しんでいるのだ。そして意味深な笑みを浮かべ、一言。
「さあ?」
 その言葉が空間を震わせた瞬間。時が再び動き出した。常人を超える力を持つ男は流れ出る情熱のままに相手をかき抱こうとして、窘められた経験が何度もあった。しかし、それはいつもこの熱と夜が過ぎ去った後での話。今、この場の流れを止めるような野暮はなく、その結果、次の朝に何を言ったり言われたりするかは、今この時とは別のこと。  闇の中、戯れとも付かぬ言葉を楽しんでいる艶を含んだ唇を指でそっと撫ぜると、覆い被さるようにして深く口付ける。ベッドが軋む音とお互いの息遣いが静かな夜にやけに大きく聞こえた。ひとしきりお互いの唇を味わった後、仕掛けた相手は仕上げとばかりに濡れた唇を舌で一舐めすると鼻は摺り合う位置のままに相手に囁く。
「君からそんな言葉が聞けるなんて、その…何といったらいいか」
 最後のおずおずとした口調とは対照的に、手は積極的に動こうとしている。そんな相手のシャツのボタンに手を掛けながら、男は応えた。
「意外か?」
 その言葉に、驚いたような口調で、シャツを剥がれ、向かい合った相手同様に上半身を露にした男は言った。
「いや。そういうことじゃなくて。嬉しいよ」
 言いながら相手の下肢に手を伸ばした男はスラックの中に指を這わせる。そんな男の太い指を意識しながら、されるがままになるのを潔しとしない男も相手の下肢を露にすべく手を伸ばした。ジッパーを下ろしながら囁く。
「図星だったろ」
「まったくだ。私もしたい」
 間髪入れずにそう応えると、男は相手の滑る中心を弄び、その滑りを借りて最奥へと指が伸びる。武骨な指が少しずつ体を開いていくにつれ、息が漏れ、熱が体を支配し始める。
「っ………それは…今?それとも…」
 それ以上の事をされている今、何故こんな問いを発してしまったのか、熱に浮かされたようにしか喋ることが出来ないことよりも、熱に浮かされたような問いを発してしまった自分に、男は苦笑を漏らす。そんな男の表情に何を思ったのか、相手はゆっくりと指を抜いた。
「ちょっと考えた。助けたり助けられたりする度に…なんて。考えるだけでちょっとワクワクしたよ」
「ジョンに…っ」
 気取られるなよ…と言おうとした、その瞬間。一気に内部を猛る熱でもって抉られ、思わず声が途切れた。同時にあふれ出ようとする欲望の証を握り込まれれる。
「ブルース。一つ。こういうときに出る名前は男の方が、焼ける」
 言いながら、更に身を進める男に思わず声を上げる。同時に下肢がずんと重くなった反動もあって呼ばれた男は上手く喋ることが出来なかった。反射的に自らを戒める相手の手を止めるべく手を伸ばそうとしたが、その無意味さを思い出して途中で止めた。
「何を…っ、く…」
 下でもがくように身を震わせる男とは対照的に、その力でもって相手を喘がせている男は余裕の表情だ。
「何でかな。同じ土俵だって感じるからかな」
 そう言いながら、手をそのままに大きく腰を動かす男に抗議の声を上げようとして、組み敷かれている男は判然としない自分の脳を叱咤した。
「あっ……バカ…なっ。っ私は…」
「言って、ブルース」
 どうやら自分は乗せられているらしい…と、いいように熱を制御されている男は、何とか動いた頭の片隅で思ったが、もうこうなってしまえば、どうでもよかった。どうもこういう関係になってしまってからというもの、最初はそうでもなかったが、回を重ねるごとにすっかりこの手管に乗せられて、ついついと、自分の上でうっとりと囁く男に、応えてしまう。熱に潤む瞳で相手の目を捕らえ、覚束ない口を何とか動かすと一言小声で囁いた。彼の望む言葉を。
「……お前だけだ…」
「嬉しいよ」
 そう言って男は下肢を戒めていた指を緩めると一際大きく腰を使った。その動きにとうに限界を超えていた男のそれは解放を許されて果てる。それを追うように内部に熱い奔流を感じ、その間髪無さに思わず意識が飛びそうになったが、なんとか踏みとどまった。息を整えようと、荒い呼吸を繰り返している男はまだまだこんなのは序の口だということを知っている。知っていて自分も楽しんでいるんだから何も言えないな…と息と共に纏まってきた頭で考える。戻ってきた少しの思考も、未だに自分の中でひそかに力を蓄え再び力を取り戻そうとしている目の前の男のモノにもうすぐまた、引っ掻き回されるだろう。  向かいの男に言う文句は夜が開けたら考えよう…。それとフラッシュに…。その辺りで男の整然思考は崩壊した。長い夜はまだまだ明けない。





End...?




[pillow talk]
2004.7.11 脱稿

やおいですな…。山もなく落ちもなく意味もないです。
最初は話してるだけにしようかと思ったのですが、気がついたらエスカレートしておりました(汗
S/Bだと、どうもやりたい放題できてしまうみたいです。
オフィシャル的知識の無さについて私が既に開き直っているせいかもしれませんが。

グリーンランタンやフラッシュとかよりも、ジョンの方がBさんと仲良いような気がする今日この頃…。
Sさんが密かにいつも妬いてたりしたら楽しいな。でもってダイアナはまさかなダークホースだったので、
ついこんなときに口を付いて出てきたんだよ〜なんていう自分的脳内裏話があったり無かったり(笑

地の文で本名を使わないようにしよう…と思って書き始めたら、かなり難しくて。
おまけに読みにくくて、スイマセン。
ちょっとあまりにも二人が有名どころなヒーローさんなので恐れてみたのです。
でも書き終わってちょっと色々とふっきれたので、今度からは普通に書こうかと思います。



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