水辺。
霧掛かる夜明け前。
しっとりと朝露に濡れる草いきれの中で、重い身を起こす。
側に流れる河は深い森が作る清浄な水を湛え、目の前で緩やかにあった。
サラサラと流れるその冷たい水に身を浸す。
その温度に思わず身が震った。
生理的な反応だが、何故か居心地が悪い。
澄んで冷たい水と、染み込むような清浄な大気が、
逆に別のそれを強く意識させたからだ。
そのままに。静寂が遠のく。
熱く、昏く、そして恐ろしくも狂おしいあの闇が。
血とそして―――。
そして―――。
水に身を更に深く沈めたが、もう何も変わらない。
闇の中で身体を蝕んだ熱が流れ出し、その感覚にまた震える。
生理的な反応だ。当然居心地が悪い。
どのくらいそうしていたのか。
気がつけば、日が山間から差し込み始めていた。
少しずつ、霧が晴れ、水分を含んだ大気が乾いていくのを感じる。
「すぐに、また―――忘れてやるさ」
ゆっくりと、しかし絶え間なく流れ続けることで
水面が己を映さないことに安堵を覚えながら、呟いた。
fin.
事後の朝。ウルは少し感傷的。
(2006.10.29脱稿)